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2022年映画ベスト10

 2022年に鑑賞した新作映画66本の中から良かったものを10本選びました。ベスト10は以下のとおりです。

 ここからは選んだ10本の映画について、コメントというか…自分なりに感じたことを10位から順に書いていきます。

 

10位 わたし達はおとな 2022年6月11日鑑賞

 監督・脚本は劇団「た組」を主宰する加藤拓也。デザインを学ぶ大学生の優実(木竜麻生)は自身の妊娠に気づく。しかし、子供の父親が恋人の直哉(藤原季節)なのかどうか自信が持てず、打ち明けられずにいた…。

 本編を見て何にびっくりしたかというと、被写体の人物に対して寄りに寄ったカメラワーク。場面によっては空間の広さや位置関係が分からないほど近寄っていて。かといって、見づらい映像にはなってなくて。その近さは、劇中の登場人物たちがコミュニケーションの距離感を見誤っていることを仄めかしているようで。見たくないものまで見えちゃうような「なんか嫌な感じ」が充満していました。

 何も分かり合えていない主人公カップルの二人の口論の緊張感なんかはすごくて。藤原季節が演じる直哉のモラハラトーンポリシングの描写が強烈。「その言い方はないでしょ」と本題から少しスライドして、違うポイントで相手を責める責める。ああ、ずるいよなぁ…と。自分が歩まなかった道を見ているようでもあり、いまの若者の言語感覚みたいなものが台詞にも生々しく反映されていて。ハッキリいって気分のいい話ではないのに、映画としては忘れ難い一作になり、ベスト10にギリギリ入れました。


9位 恋は光 2022年6月18日鑑賞

 秋★枝の同名コミックを実写映画化。監督・脚本は小林啓一。「恋をしている女性が光って見える」という特異体質の大学生・西条(神尾楓珠)は、恋愛とは無縁の学生生活を送っている。彼は文学少女・東雲(平祐奈)に一目ぼれし、幼なじみの北代(西野七瀬)に相談するが…。

 大学生4人の四角関係を中心に、恋の定義や仕組みについて、解き明かそうとするのが真面目というか健気というか。同時期に見た『わたし達はおとな』と比べると、同じ若者の恋愛についての話でも、こっちは比較的ポジティブで、恋愛の開けた可能性を提示しているような気がしました。

 コミックが原作ということもあってか、登場する人物の設定や口調自体はリアリティからほど遠いものの、劇中にあるさりげない心情描写や所作の端々に説得力が生まれていて、各キャラクター達の魅力に繋がってるのが良い。特に西野七瀬は全体を俯瞰的に見ていて、いわばツッコミ的なポジションに立っているんですが、そんな彼女が次第に変化していく様子もグッとくる。岡山県でのロケーションや、各人の衣装も素敵。


8位 NOPE 2022年8月27日鑑賞

 ジョーダン・ピールの長編監督第3作。空に突如現れた不気味な存在をめぐり、謎の解明のため、OJ(ダニエル・カルーヤ)と妹エメラルド(キキ・パーマー)が動画撮影を試みる…。

 『ゲット・アウト』や『アス』と比べて、主人公が対峙するものの種類が決定的に異なるし、その過去2作よりも好きです。奇怪な現象を追いかけている姿を見守っている感覚を覚え、それが怖くもあり、興奮しました。『トップガン:マーヴェリック』が映画館のスクリーンでこそ見るべき映画だ、という声を今年はよく耳にして、自分もそれには賛同するけど、そういう意味ではこの『NOPE』も全然負けてなくて。本作は撮ること、撮られること、そして被写体の尊厳についての映画だと解釈しました。

 2022年に見た映画の中で、唯一この『NOPE』だけもう一回見に行ったんですよ。初回鑑賞で見た通常スクリーンの額縁上映は、やはり遠く狭く感じたので、109シネマズ大阪エキスポシティのIMAXレーザーGTでどうしても見たくて。1.43:1のフルサイズIMAXの画角の特徴が活かされていて、上下の関係性が大事な映画だともう一度見直したことで気づきました。


7位 さがす 2022年1月22日鑑賞

 片山慎三監督作。「指名手配中の連続殺人犯を見た。捕まえたら懸賞金300万円もらえる」と言って忽然と姿を消した原田智(佐藤二朗)。中学生の娘・楓(伊東蒼)は消えた父の行方を捜し、日雇い作業現場に向かう。そこでは父の名前を語った見知らぬ若い男(清水尋也)が働いていて…。

 劇中のあるポイントから、この映画はガラッと様相を一変させるので、本編を見て「うわ、こんな話だったのか」とビックリして、最後まで映画に釘付けになりました。2022年1月に見た時点で、「これは年間ベストに入るかも。いや入れたいな」と思ったほどで。特にドア、ふすま、ガラス等、空間を仕切るものの映し方が特徴的で、それは開けてはいけない何かを示しているようで…。

 失踪した父を娘が探す話であるため、親子役の佐藤二朗と伊東蒼の共演場面って、振り返ってみると映画全体では実は少ないんですが、それでも親子の関係性の深さが伝わりましたし、紆余曲折しながらも、最終的にこの親子の話に帰着していくのは良かったですね。『おかえりモネ』で同じ気象班の役どころだった清水尋也と森田望智が、朝ドラとは極端に違う役でガッツリ共演してるのも、マルチバースを覗いているようで変な気持ちになりました。


6位 ある男 2022年11月19日鑑賞

 平野啓一郎の同名小説を石川慶監督が映画化。弁護士の城戸(妻夫木聡)は、依頼者・里枝(安藤サクラ)から亡くなった夫・大祐(窪田正孝)の身辺調査をしてほしいという相談を受ける。疎遠になっていた大祐の兄(眞島秀和)が大祐の遺影を見て、全くの別人だと指摘したのだという…。

 序盤から里枝(安藤サクラ)にしっかり感情移入したところで、途中から弁護士の城戸(妻夫木聡)の視点にスライドしていくのが非常にスムーズで。彼が初めて登場する場面は飛行機内。外の日光に照らされて機内の窓の日よけを下げる姿が、一方的に外野からラベリングされることを拒んでいるように見えました。この映画は、映像で語ることの魅力が全体に立ち込めているように感じました。そして、「なりすまし」の問題を起点に、やがて「自分とは何者か?」という普遍的な問いに視界が広がっていくのは見事。

 眞島秀和演じる大佑の兄のコミュニケーションのとり方を見ていると(例…自分が提供した食事を「うまいっしょ!?」とやや食い気味で聞く)、兄弟間がうまくいかないのもわかるし、「仕事はできるんだろうけど、なんかこの人、嫌だな…」とつい思ってしまう人物造形が印象的でした。小籔千豊が演じる同僚弁護士も、城戸とはタイプの異なる弁護士であるというハッキリとした描き分けがされていて、それがメリハリを生んでいました。また、「怪演」という言葉はこの人のためにあるんじゃないか?という気さえしてくる柄本明の怪演もすごくて。それくらい出てる役者さん全員が良いんですよねホントに。


5位 リコリス・ピザ 2022年7月3日鑑賞

 ポール・トーマス・アンダーソン監督が、1970年代のアメリカ、サンフェルナンド・バレーを舞台に描いた青春物語。主人公となるアラナ・ケイン(アラナ・ハイム)とゲイリー・バレンタイン(クーパー・ホフマン)の恋模様が描かれる…。

 映画の冒頭にて、アラナとゲイリーの二人の会話の中で「同じことを2回言う」ことについて触れられるんですが、確かにこの映画内では(言葉に限らず)同じことが2回出てきます。その繰り返しの中に独特のリズムが刻まれているようで、心地よさすら感じました。

 正直「な、何このエピソード…??」と不思議に思うポイントも多いのだが、かといって全く退屈ではなくて。二人のキャラクターの行動や会話にずっと興味を惹きつけられましたし、何より演出や映像技巧がすごい。二人が過ごす街や空間をカメラがしっかりとらえていて、映画を見るだけであの世界にスッと入れる。これはすごい作品だなと感嘆しました。日本での公開時期は2022年7月でしたが、夏に見るにはピッタリでした。

 

4位 百花 2022年9月10日鑑賞

 川村元気が自身の同名小説を、自ら長編初メガホンをとって映画化。レコード会社に勤める青年・葛西泉(菅田将暉)と、ピアノ教室を営む母・百合子(原田美枝子)。過去のとある出来事により、親子の間には埋まらない溝があった。ある日、百合子が認知症を発症してしまい…。

 予告編からルックの良さを感じてはいましたが、本編はその予感や期待を上回る場面ばかりで。雨、川、湖、金魚鉢など水のモチーフが特徴的で美しい映画でした。認知症になった母親から見える景色とその過去の記憶を、多彩な映像演出で映し出している様が綺麗でもあり怖くもあり…。

 認知症になった親とその子供の話という点では、(物語も演出も)フロリアン・ゼレールの『ファーザー』を彷彿とさせます。本作『百花』では長回しが多用されていて、「記憶」というテーマと撮影手法が合致しています。長回しで撮られていることで、映画全体に適度な緊張感が漂っており、必然性があると思いました。いつか忘れてしまう日がきても、この映画のことを忘れたくないな。

 

3位 LOVE LIFE 2022年9月10日鑑賞

 矢野顕子の同名楽曲を題材にした、深田晃司監督の最新作。妙子(木村文乃)は再婚した夫の二郎(永山絢斗)、前夫との間の息子・敬太(嶋田鉄太)と日々を過ごしている。とある出来事をきっかけに、失踪していた前夫のパク(砂田アトム)が現れるが…。

 この映画について書きたいことは、当時の感想で書いたつもりです。付け加えるとしたら、意外だったのは『百花』と共通点がいくつもあったこと。自分は『LOVE LIFE』とセットで考えていて、どっちも良かったんですが、『LOVE LIFE』の方が刺さって抜けないトゲのような感覚が強くて、こちらを『百花』よりも上位に選びました。

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2位 コーダ あいのうた 2022年1月23日鑑賞

 2014年製作のフランス映画『エール!』をシアン・ヘダー監督がリメイク。海の町暮らす高校生のルビー(エミリア・ジョーンズ)は家族の中で1人だけ耳が聞こえる。そのため、ルビーは幼い頃から家業の漁業を毎日欠かさず手伝っていた。新学期、彼女は合唱クラブに入部することになり…。

 泣きながら見ました。Apple TV +で配信されている国もある中で、日本では劇場公開してくれてありがたい! 歌唱シーンはどれも良く、「音」の演出が素敵で、劇場で見られて良かった。映画として素晴らしくて、それ以上言えることがないくらい。

 劇中で、指導する音楽のV先生(エウヘニオ・デルベス)が「時間を無駄にするな」とセカセカしてるんだけど、あれって「自分の時間を大切に」ってことを言ってるんですよね、きっと。特に若いうちの時間はあっという間に過ぎるし、先生自身の経験や後悔によるものなのかなぁ、なんてことも考えました。

 

1位 神は見返りを求める 2022年6月26日鑑賞

 吉田恵輔監督のオリジナル脚本。合コンで出会った、イベント会社に勤める田母神(ムロツヨシ)と、弱小YouTuberのゆりちゃん(岸井ゆきの)。再生回数の少なさに悩むゆりちゃんを不憫に思った田母神は、見返りを求めずに彼女のYouTube動画の撮影を手伝い始めるが…。

 吉田恵輔監督の作品は、人の自意識をえぐるのがうまくて、大好きな映画監督の一人なんですが、撮る者も見る者も人の自意識が出やすい「YouTube」を題材にチョイスしたのが、吉田監督らしいなぁと思います。特に劇中の動画の作り込みがすごい。エンドロールにYouTube動画の制作やら監修のクレジットがズラズラ並んでいました。おそらく実際の動画配信関係者に協力してもらったのでしょう。「このテロップの出し方や編集、見たことある…」と既視感を覚えてリアルに感じました。

 再生回数が伸び悩む無名Youtuberの女性と、彼女の動画制作を善意で手伝い始める男。この二人の出会いをきっかけに、各自の自意識や承認欲求が暴走して大変なことに発展していきます。この二人の小競り合いだけでも面白いんですが、そんな二人の間をフワフワ漂う梅川(若葉竜也)のテキトー具合が最悪で最高。コミュケーションのすれ違いのもどかしさや、人が一線を越える瞬間の緊張感もあり、これぞ吉田恵輔監督作!!!といえる内容で、今作も怖くて面白かったです。この映画が内包している爆発力のようなものは今年見た映画の中で一番で、ベスト1位に選びました。

 

 ということで、2022年のベスト10は以上となります。では、このあたりで2022年を戸締まりさせていただきます。

 

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