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黙秘る(だまる):『沈黙のパレード』について

 とある町で女子学生が行方不明となり、数年後に遺体となって発見された。かつて草薙(北村一輝)が担当した別の事件で無罪になった蓮沼(村上淳)が容疑者として浮上。だが、今回も証拠不十分で釈放されてしまう。行き詰まった事件について、内海(柴咲コウ)は湯川(福山雅治)に相談しようとするが、湯川も偶然その町に来ていて…。

 『ガリレオ』シリーズといえば、東野圭吾推理小説シリーズを映像化したプロジェクト。2007年から連続テレビドラマや映画が複数制作されている。一連のシリーズが始動してから約15年経つが、実際の稼働スパンはかなり空いており、今回の映画『沈黙のパレード』は9年ぶりの新作だ。

 テレビドラマ版では、湯川が事件の真相に気づき始めると、ところ構わず数式を書き殴るのがお約束。事件のトリックを科学的に実証しながら、(基本的には)1話完結型の謎解きミステリーとしてテンポよく楽しませる。
 一方、劇場版ではテレビドラマ版のフォーマットとは大きく異なり、抑制されたトーンで撮られており、終始、落ち着いた映像演出によって語られる。湯川が派手に数式を書き殴ることはなく、事件関係者の人物の内面についてガッツリ深く掘り下げられている。湯川が得意とする「理性」や「論理」だけでは通用しない、事件に関係する人々の「感情」や「人情」にぶつかることになる。それだけに1話完結型のテレビドラマ版に比べるとやや渋い後味が残るのが劇場版の特徴だ。

 で、今回の『沈黙のパレード』はどうだったかというと、テレビドラマ版のテイストにかなり寄せているな、というのが率直な印象。テレビドラマ版でおなじみだったサウンドトラックの曲が、本作では複数曲使用されているし、今回のトリックの種明かしの演出は、映画のそれというよりも、わかりやすさを優先したテレビ番組的な演出のように感じられる。よって『容疑者xの献身』『真夏の方程式』のようなトーンの作品を期待すると、肩透かしを食らうことになる。

 今回の事件には、人の思いが複数に折り重なっていて、展開も二転三転するし、やはり「人情」が前面に出てくる。「理」によって事件を解き明かそうとしている湯川が「情」と対峙する。秘密を胸の奥に隠し続けることのキツさ、黙秘を続けることの重さについて問いかける。『容疑者xの献身』『真夏の方程式』での苦い事件を経たことを踏まえると、湯川が今回の事件に向き合うことに深みが出てくる。

 西谷弘監督による手堅い演出は健在で、実在する「あの曲」を何度もリフレインさせる演出は、事件の被害者となった少女・佐織(川床明日香)の存在が町の人にとってどういうものかを語るうえで効果的だった。また、本作の主題歌となっているKOH+の『ヒトツボシ』も、「あの曲」とうっすらリンクしているように聴こえた。