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言葉の鮮度:ダウ90000『また点滅に戻るだけ』について

 以前、ダウ90000の『ずっと正月』の感想で、「いつかこの人たちのライブを生で見れたらな」と書いたことがある。

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 その後も、ダウ90000のライブや公演は配信で追いかけていて、2023年5月21日、本多劇場にて第5回演劇公演『また点滅に戻るだけ』を運よく最前列で観劇する機会に恵まれた。これまで画面越しで見ていた8人の姿を初めて生で見ることができた。

 5月のゴールデンウイーク。ゲームセンター「サーカス」に、20代になった高校の同級生たちが久々に足を運ぶ。駄弁っていると、芸能活動をしているミオ(中島 百依子)の過去のプリクラが週刊誌に掲載された話題へ。一体、誰がプリクラを流出させたのか…?

 プリクラ、ガチャガチャ、メダルゲームが並ぶゲームセンターが今回の舞台だ。ゲーセンって、まぶしくて、ずっと何かしら点滅している。ああ、そっか。『また点滅に戻るだけ』の「点滅」ってゲーセンのことか、と公演のタイトルに納得。舞台設計は2階建てで、横だけでなく、上下の縦移動もあり、空間が広く使われている。ゲームセンターというワンシチュエーションでの8人の会話によって、過去の思い出話が混ぜこぜになりつつ、話が展開する。

 また、8人の会話の中だけで出てくる人々の存在が面白い。前に住んでいた部屋の隣人。飯踏(忽那 文香)が仲良くしているミオのお母さん。カワサキ先輩、ユリカ先輩をはじめとする、いくらなんでも人物相関図がややこしすぎる高校時代の先輩。その場にはいないのに、彼らの会話の中から立ち上がってくる人の存在までもが面白い。

 劇中では、聞いたことのない表現や例えツッコミが飛び交う。プリクラ流出の謎解きとは別に、今回の話の軸は「言葉選び」や「センス」にあることが浮かび上がってくる。

 日々の生活とは何かを受け渡したり受け取ったりするのを繰り返していくことなのだと、個人的に最近よく思う。個性が立っている言葉を相手に投げかけて、それで盛り上がったりとか。前に付き合っていた人の口癖とか、好きな人が用いていたフレーズが自分の中に蓄積されて、また別の誰かに渡っていったりとか。相手に渡した自覚がなくても、知らず知らずのうちに相手の手元に行き渡っていることもあるし。そういうことの繰り返しなのかなって。その繰り返しの中で、自分らしい言葉やセンスも磨かれていくんじゃないか、って。

 ダウ90000の蓮見翔という人は、言葉の鮮度を本当に大事にしている。他の作家の「手垢」がつく前に、鮮度が落ちないうちに、いま面白いものや言葉を世に出したいというモチベーションを感じ取った。これからのダウ90000から発信される言葉や表現を、これからも受け取りたい。