2024年に鑑賞した新作映画68本の中から、特に良かったものを10本選びました。2024年のベスト10は以下のとおりです。
#2024年映画ベスト10
— oh (@ok5ok7) 2024年12月30日
①夜明けのすべて
②ロボット・ドリームズ
③ラストマイル
④パスト ライブス/再会
⑤猿の惑星/キングダム
⑥ミッシング
⑦悪は存在しない
⑧陪審員2番
⑨ディア・ファミリー
⑩アイミタガイ
ということで、ここからは選んだ10本の映画について、自分なりに感じたことを10位から順に並べていきます。
10位 アイミタガイ 2024年11月9日鑑賞
作家・中條ていの同名短編集を映画化。監督は草野翔吾。ウェディングプランナーとして働く梓(黒木華)は、親友・叶海(藤間爽子)が亡くなったことを知る。梓は生前の叶海と交わしていたLINEのトーク画面で、死後も叶海のアカウントにメッセージを送り続ける。
「アイミタガイ」とは、簡単にいえば「お互い様」「互助」の意。劇中では、複数の登場人物の偶然や思いやりが重なり、物語が動きます。映画の冒頭1カット目から地震対策のための突っ張り棒が映ります。冒頭から突っ張り棒が登場する映画は、自分が知る限り他にありません。ただ、その突っ張り棒だって、おそらく「地震による被害を少しでも減らしたい」という開発メーカーの思いによって工夫が凝らされているわけで。「誰かの思いが他者のもとに渡ること」がいきなり冒頭から示されていると感じました。
個人的にも最近、実生活で不思議な巡り合わせを感じた経験があって、自分の身の回りでもリアルに「アイミタガイ」って起こるのね、と驚きました。そんな個人的な感慨込みで、今年のベスト10に入れちゃいました。案外、気づかないだけで、縁や善意って近いところにあると思います。
9位 ディア・ファミリー 2024年6月14日鑑賞
国産バルーンカテーテルを初めて開発した筒井宣政の実話を月川翔監督が映画化。小さな町工場を経営する坪井宣政(大泉洋)と妻・陽子(菅野美穂)の娘・佳美は、生まれつきの心臓疾患により、余命10年を宣告される。どの医者でも治療のしようがないことを知った宣政は、自ら人工心臓を作ることを決意する。
医療分野の素人の父親が娘のために、努力してバルーンカテーテルの開発に挑んだ。そんな人物が実際に愛知県にいたことがすごいですよね。劇中の1980年代前後の時代描写(街並みや自動車、家具など)がこだわり抜かれていて、この無謀な物語の説得力を倍増させている。技術や情報は現代に比べると発展途上だし、当然インターネットもない。何をするにも時間がかかるし、そもそもこの時代にそんな開発が本当にできるのか?という気持ちになる。だからこそ「諦めてタイムリミットまで過ごすのではなく、残り時間を利用して自分ができることがあるんじゃないか?」という思考の重要性が響きました。それはこの家族に限ったことではなく、映画を見た観客にも「今からこの先の10年間、何をするのか」と問うような、広く開かれたラストだと思いました。
この映画のモデルになった筒井宣政氏は、あるインタビューで”これをやらないと自分の子供が死んでいくと思った時、「もう死になさい」って言える親はいないでしょう”と語っています。その言葉の精神がこの映画にも宿っています。
8位 陪審員2番 2024年12月22日鑑賞
クリント・イーストウッド監督作。日本ではU-NEXT独占配信。殺人事件に関する裁判で陪審員をすることになった主人公ジャスティン・ケンプ(ニコラス・ホルト)が、その事件に自分が関与していることを悟り煩悶する法廷ミステリー。
主人公が陪審員として担当することになった事件の内容をよく聞くと、過去の自分の行動が関わっているかも…と途中で気づく。これほどゾッとする経験はないというか、逆「アイミタガイ」というか。「そんなことあります!?」と言ってしまいたくなる偶然に引き寄せられた人の話だと捉えました。自分が劇中のジャスティンの立場だったら、とてもじゃないがメンタル的に耐えられないでしょうし。自身の事件の関与を伏せながら他の陪審員とともに検証を進めていく本作は、静かながらもスリルがあります。
最終的に判決が下された後に、劇中で語られることや展開が非常に興味深い。人が人をジャッジすることの重さと、正義というものの在り方について突きつけられましたし、この作品を劇場で見る機会がないのは勿体ないと思いました。
7位 悪は存在しない 2024年5月3日鑑賞
監督・脚本は濱口竜介。自然豊かな高原に位置する長野県水挽町。その地に暮らす巧(大美賀均)は、娘の花(西川玲)とともに、自然のサイクルに合わせた慎ましい生活を送っている。ある日、家の近くでグランピング場の設営計画が持ち上がるが…。
まず、この『悪は存在しない』というタイトルだけで既に面白い。その文字通りに受け取ってもいいし、反語のようにも捉えられるし。『悪は存在しない』というフレーズの前後に何か言葉が付け足される余地もあるし。そして、本編を見ると、ますますこのタイトルの引力を強く感じます。
グランピング場の設営に揺れる田舎町の出来事を、濱口監督らしく冷静に捉えています。その一方で意外なカメラアングルの遊び心や、人物同士の絶妙な会話のやり取りといった余裕も漂っています。本作のラストには「どこが『悪は存在しない』だよ」と言いたくもなるのですが、その突き放された感覚は全く嫌なものではなくて。理解し得ないものを一旦、理解できないまま受け取って、すぐに答えを出さずに自分の中で時間をかけて咀嚼することを大切にしたいと思ったのでした。
6位 ミッシング 2024年5月19日鑑賞
監督・脚本は吉田恵輔。沙織里(石原さとみ)の娘が突然いなくなってから3カ月が過ぎた。娘の行方について手掛かりはなく、夫・豊(青木崇高)との喧嘩が絶えない。沙織里は娘の失踪について、情報提供を求め続けるが…。
ニュースで事件や事故、戦争の情報を目にすると「もうこんな悲しいことが起きてほしくない」と思うことってありませんか。自分はしょっちゅうあります。報道を見ているだけの自分がそう思う以上に、実際に被害に遭った当事者や関係者の心境は計り知れません。
『ミッシング』では、失踪した我が子を案じる親の苦しみが描かれています。失踪の原因も、事故か誘拐なのか単なる迷子なのかも「わからない」。諦めたくないが、かといって、発見される可能性はどれほどあるのか「わからない」。ネットで誹謗中傷をする者、嫌がらせを行う者の顔も「わからない」。そうした「わからなさ」こそが、当事者にとって非常にストレスになる。そして、ストレスを限界まで抱えた沙緒里があることを機に決壊する場面は、本当にいたたまれないし直視できませんでした。だからこそ、本作のラストにおける光の跡に手をかざす行為に、絶望と希望と、それ以上の何かを感じ取ったのでした。
5位 猿の惑星/キングダム 2024年5月11日鑑賞
『猿の惑星』のリブートシリーズ4作目で、今回の監督はウェス・ボール。前作『猿の惑星: 聖戦記』から約300年後、猿の文明が繁栄する一方、人類は退化していた。冷酷な独裁者プロキシマス・シーザー(ケビン・デュランド)によって、若き猿ノア(オーウェン・ティーグ)は故郷や仲間を奪われる。そんな中、ノアの前に人間の少女ノヴァ(フレイヤ・アーラン)が現れる。
『猿の惑星』のリブート企画って、2017年の『猿の惑星:聖戦記』でやり切ったと思っていたので、本編を見る前までは「わざわざ続けたところで面白くなりようがないのでは…」と懐疑的だったのですが、予想に反してとても面白くて驚きました。アクションの組み立て方はゲームっぽいと感じましたが、全然悪くなくて。むしろ猿たちの身体性や攻防にうまくハマっていて、ゲームっぽい手法やビジュアルをうまく応用していると感心しました。
今回、登場する人間のキャラクターはなかなか油断ならなくて新鮮味がありました。これまで『猿の惑星』シリーズが描いてきた猿と人類の対立構造に、ここにきて意外なメスを入れてきたな、と興奮。クライマックスを経て一段落した後にも、なお緊張感が持続する仕掛けが待っていて、今後のシリーズの発展が楽しみになりました。
4位 パスト ライブス/再会 2024年4月13日鑑賞
セリーヌ・ソンの長編映画監督デビュー作で、自身の体験をもとに脚本を執筆。韓国・ソウルに暮らす12歳の少女ノラと少年ヘソンは、互いに恋心を抱いていたが、ノラの海外移住により離れ離れに。12年後、24歳になった2人はオンラインで再会を果たすが、再びすれ違う。そして、さらに12年後…。
人生における様々な選択。年をとればとるほど、選ばなかった(選ばなかった)別の世界線に思いをはせたりするもので。ただ、違う道を選んでたら選んでたで、いまいるここの世界線がよかったなと羨ましく思うかもしれないし。そう考えると、自分のこれまでの選択も悪くはなかったじゃないか。間違ってたとしても、そこから学ぶこともあったし、さらにその先で新しい選択肢に出会うかもしれないじゃないか。それでも、過去に置いてきた感情は代えがたいし、もとの関係性にはもう戻れない事実だけが切ない。
この映画を「見る」か「見ない」か、2通りの選択があるとしたら、「見る」ことを推奨します。
3位 ラストマイル 2024年8月23日鑑賞
テレビドラマ『アンナチュラル』『MIU404』の監督・塚原あゆ子と脚本家・野木亜紀子が再タッグを組み、両シリーズと同一世界線で起きる事件を描いたサスペンス。1月のブラックフライデー前夜、世界規模のショッピングサイトの配送センターから出荷された段ボール箱が次々爆発する事件が発生する。
「ネットショッピング」「物流」「ブラックフライデー」を題材に、エンターテインメントとしてここまで面白いものができたこと、「資本主義」「労働環境」等についても考えを促されること、この映画の射程距離の広さに驚きました。作品の感想については、鑑賞後こちらの記事で書いています。
2位 ロボット・ドリームズ 2024年11月16日鑑賞
アメリカの作家サラ・バロンによる同名グラフィックノベルを、スペインのパブロ・ベルヘル監督が映画化。擬人化された動物たちが暮らす1980年代ニューヨークで犬とロボットが織りなす物語が、セリフやナレーションなしで描かれる。
犬とロボットの交流と関係性に、泣かされるとは思いませんでした。言葉で語らずとも、キャラクターの表情や行動、音楽で感情が伝わる。キャラクターのビジュアルは、愛らしさとどこか不憫な感じが詰まっているし、全体的な色味やデザイン、どれをとっても素晴らしいものでした。鳥の親子も可愛すぎ。
劇中、屋内から窓越しの外の景色が見えるカットが多々出てきますが、それを見るたび世界の広さと孤独の侘しさが同時に押し寄せてきます。行き場のない感情の変化を経て、それでもなお、その先に続く生活や人生を静かに肯定する素敵な映画でした。
1位 夜明けのすべて 2024年2月11日鑑賞
瀬尾まいこの同名小説を、三宅唱監督が映画化。PMS(月経前症候群)のせいで月に1度イライラを抑えられなくなる藤沢さん(上白石萌音)は、会社の同僚・山添くん(松村北斗)のある行動がきっかけで怒りを爆発させてしまう。そんな山添はパニック障害を抱え、生きがいも気力も失っていて…。
個人的なことですが、昨年、コロナ感染と過労により、身体を壊して倒れたことがありました。その後も身体の感覚が過敏になったり、今まで当たり前にできていたことができなくなったり。そんな時期がほぼ一年間続いて、自分の身体なのに思い通りにいかない状態を経験しました。いまとなっては、すっかり全快したんですが、自分がつらかった時期に試していたことを『夜明けのすべて』の藤沢さんも山添くんも同じようにやっていて。専門家に相談する、関連書籍を複数読む、対話する、自分なりの対処法を探る。症状も状況も自分のものとは異なるものの、生きていくために二人がしていた行動があの頃の自分と同じで。あれは間違ってなかったんだな、だから今があるんだよな、と救われる思いがしました。
『夜明けのすべて』は町工場を舞台にしながら、個々の人間の営みだけでなく、バイオリズムや宇宙規模のスケールまでも感じさせる、すごくよい作品だと感じました。一個人の人生や悩みと、地球のサイクルが重ねられていて、いまこのめちゃくちゃな世の中を生きているすべての人に向けられた映画だと思います。個人的にも、これから先も見直すことがある映画だと強く確信しています。
さいごに
以上、2024年に見た映画を10本選びました。映画の年間ベストについてブログで書くことを、2019年の年末から開始して、気づけばもう6年目になりました。毎年、自分の思っていることの1割しか文章に起こせていない気もするのですが、年末にバーッと書き連ねることが自分にとっても恒例になっています。また2025年以降も続けられたら。
2025年は何の根拠も予定もないのに、なぜかいろいろ起きる予感だけがしていて。こういう時の自分の直感を大事にしながら、フワッとした予感をハッキリとした現実に育てたいし、1年後の自分とうまく答え合わせできるといいな、と思っています。