2023年に鑑賞した新作映画60本の中から良かったものを10本選びました。2023年のベスト10は以下のとおりです。
ということで、ここからは選んだ10本の映画について、自分なりに感じたことを10位から順に並べていきます。
10位 最後まで行く 2023年6月4日鑑賞
同名韓国映画を藤井道人監督が日本版としてリメイク。刑事の工藤(岡田准一)は危篤の母のもとに向かうため車を飛ばしていたが、運転中にある男をはねてしまう。遺体の隠滅を図ろうとする工藤だが、工藤のスマホに「お前は人を殺した。知っているぞ」というメッセージが届く。
マズい事態を誤魔化そうとする岡田准一のアタフタ具合が印象的で、目の前の相手と話しながらも、頭の中では違うことを考えてもいる。焦っている人間の「心ここにあらず」な様子がダサくて真に迫っている。その一方で、工藤を追い詰める矢崎(綾野剛)のヌメッとした存在感もたまらなくいい。綾野剛が表情を使い分けたり、一瞬で「オラァ!」とブチ切れてテンションを変えたりするのが怖い怖い。そんな工藤と矢崎の「追う」「逃げる」「隠す」「見抜く」の行動が面白くて。
文字通り地を這うようなアクションや、万札にまみれながらの攻防もルックとして見応えあり。特に巨大なドラム缶が落下して、自動車がぺしゃんこに潰れる場面は、実際に落として潰して撮っているだけに相当な迫力があり、劇場鑑賞時は自分含めた観客がビクッと驚いていました。
9位 グッドバイ、バッドマガジンズ 2023年2月4日鑑賞
監督は横山翔一。志望していた女性誌とは正反対の男性向け成人雑誌の編集に配属されてしまった詩織(杏花)。ひと癖もふた癖もある編集者やライター、営業担当者たちに囲まれながら一人前の編集者として成長していくが…。
斜陽の成人向け雑誌編集部の内幕や奮闘を描いていて、題材の着眼点やエピソードが個性的。時代の変化によって、成人向け雑誌の存在自体が"萎えていく"中で、もがこうとする人々の姿に、不思議な共感と悲哀を感じました。編集部に配属された新人・詩織が仕事の荒波にもまれていくうちに、彼女の目つきが徐々に鋭く変わっていく。ある場面で彼女が放つ「私、怒ってるんですか?」という台詞も良い。
自分は映画に登場する世界とは特に関係のない職種ですが、自分自身の仕事や生活に置き換えて見てしまうポイントがいくつもありました。知られざる業界の内幕を描いた映画ですが、実は普遍的なことを言っているのではないでしょうか。彼女をとりまく同僚・上司らの人物描写も絶妙で、お仕事モノとしての側面も楽しみました。
8位 リバー、流れないでよ 2023年6月25日鑑賞
「ヨーロッパ企画」が手がけたオリジナル長編映画第2作。同劇団の上田誠が脚本を書き、山口淳太が監督を務める。京都・貴船の老舗料理旅館で仲居として働くミコトは、別館裏の貴船川のほとりにたたずんでいたところを女将に呼ばれ、仕事へと戻る。だが2分後、なぜか先ほどと同じ場所に立っていた。番頭や仲居、料理人、宿泊客たちもみな、2分間を繰り返していることに気づく。
冬の貴船を舞台に2分間のタイムループが発生。時間に閉じこめられて、旅館の中や周辺を右往左往。本来不可逆な時間が戻りに戻りまくる。1分でも3分でもない、2分の繰り返しの中で、いったい何を見出せるか?という話でもあって。たった2分間、されど2分間。すぐ終わって、また始まる2分間。その繰り返しの中から生まれる騒動や混乱が面白くて、すこし切ない。
冬の貴船のロケーションが良く、鑑賞してから数か月後に実際に貴船まで行っちゃいました。現地に行くと「マジでこんな狭い範囲で撮ってたのか…」とビックリしました。また、本作のクラウドファンディングにも参加していたのですが、特典のメイキングDVDを見たら、「2分間」という制約があるため、OKが出るたびに出演者がガッツポーズをしていて、現場の苦労を垣間見たのでした。お、お疲れ様でした…。
7位 ほつれる 2023年9月10日鑑賞
監督・脚本は劇団「た組」主宰の加藤拓也。夫婦関係がすっかり冷え切っている綿子(門脇麦)は、友人の紹介で知りあった男性・木村(染谷将太)と頻繁に会うようになる。ある日、綿子と木村の関係を揺るがす決定的な出来事が起こる。
2023年5月19日に舞台版『綿子はもつれる』を観劇しました。舞台版『綿子はもつれる』と映画版『ほつれる』の根幹は共通していますが、細部はかなり異なるため、映画版では、綿子のまた違う一面を見ているようでゾワゾワしました。
この映画では、登場人物たちの会話で「整っていない言葉」がよく出てきます。例えば劇中の「正直…〇〇というのが正直なところです」というセリフ。意味としては重複していますが、普段の会話でも、我々は100%整理された言葉で喋れているわけではないですよね。このような"整っていない"言葉のざらつきに、リアリティを感じました。
舞台版『綿子はもつれる』は窮屈な空気感がしんどく、終わり方もホラーチックというかめちゃめちゃ怖いのですよ。映画『ほつれる』も窮屈といえば窮屈ですが、綿子が色々移動している様子も描かれ、彼女が何か拠り所を外に求めようとしている。映画のラストの余韻はどこか開放的な心地もあり、舞台版とは異なる軽やかな印象を抱いたのでした。
6位 怪物 2023年6月3日鑑賞
坂元裕二によるオリジナル脚本で、監督は是枝裕和。麦野早織(安藤サクラ)はシングルマザーとして、小学生の息子・湊(黒川想矢)を育てている。最近の湊の異変を心配した早織は、湊に問いただすと「担任教師の保利(永山瑛太)から体罰を受けた」と答える。
坂元裕二と是枝裕和がそれぞれ大事にしてきたものが接続したような映画でした。人によって見える世界や認識が違うこと、他者を理解すること、それらの難しさを映し出していて、この作品が作られた意味は大きいと思います。
余談ですが、本作における野呂佳代の「息子の同級生のママ友」感が、全出演者の中でも妙な説得力を醸し出していて唸りました。
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5位 イニシェリン島の精霊 2023年1月29日鑑賞
監督・脚本はマーティン・マクドナー。1923年、アイルランドの小さな孤島イニシェリン島。この島で暮らすパードリック(コリン・ファレル)は、長年の友人コルム(ブレンダン・グリーソン)から絶縁を言い渡される。バードリックには心当たりがなく困惑するが、コルムは頑なに彼を拒絶する。
孤独、断絶、焦り、自意識。おじさん同士のいざこざを徹頭徹尾描いており、その行く末が気になり、見逃せませんでした。島での生活描写や殺風景が印象的。島の外に全く出られないわけではないが、いざ出るには決心や整理が必要。終始、不穏なムードが続く映画でつらいものの、他者を尊重するとは、自分を保つとは何か?と問うているようで興味深く鑑賞しました。
この映画の2人ほどではないものの、自分の人生にも心当たりがあります。絶縁というよりは疎遠みたいなものですが…。そっけない態度をとられたこともあれば、こちらから冷たくしてしまったこともありました。そういう記憶って歳を重ねれば薄れていくものだろうと思っていたんですが、いまのところそんなこともなく、鮮明に自分の中に残っているんだなって。この映画を見た後に、個人的な元トモのことを思い返して、しばらく複雑な気持ちになったのでした。
4位 フェイブルマンズ 2023年3月5日鑑賞
スティーブン・スピルバーグが自身の原体験をもとにした自伝的作品。映画に夢中になった少年サミー・フェイブルマン(ガブリエル・ラベル)は、家族や仲間と過ごす日々のなかで夢を追い求めていく。
映画づくりに取り憑かれた若者の覚悟と苦悩。中盤で突然現れて去るおじさんとの対話が象徴的で、何かを突き詰めるということは何かを犠牲にすることなのだと主人公も観客も悟りますが、その瞬間が苦い。いや、この瞬間だけじゃなくて、この映画、割と全体的に苦い…。
映画についての映画ですが、無邪気な映画愛を語るのではなく、むしろ「映画の取り扱いには要注意!」と言っているようでした。単に映画に溺れているわけではなく、映画の中で泳いでいるというか。スピルバーグ自身が"泳げてしまう"人というか。とにもかくにもスピルバーグ自身の若い頃の話を題材に映画1本撮れてしまうのはすごいな、と集中して見入ってしまいました。本作のラストも粋。
3位 ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3 2023年5月3日鑑賞
ジェームズ・ガン監督・脚本によるシリーズ3作目。ロケット(ブラッドリー・クーパー)が瀕死の重傷を負い、治療の手掛かりを求めるべく、スターロード(クリス・プラット)らは企業オルゴスコープ社に潜入する。
MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の中でも、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーという作品が好きで。この物語を納得いく形で着地させてくれたことが嬉しくて、とても満足いく内容でした。大好きです。
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2位 窓ぎわのトットちゃん 2023年12月16日鑑賞
黒柳徹子が自身の子ども時代をつづった世界的ベストセラー『窓ぎわのトットちゃん』を八鍬新之介監督がアニメーション映画化。好奇心旺盛でお話好きなトットちゃん(大野りりあな)は、落ち着きがないため学校を退学させられ、東京・自由が丘にあるトモエ学園に通うことに。そこで、恩師となる小林校長先生(役所広司)らと出会い、のびのびと成長していく。
トットちゃんが初めて登場する冒頭の場面から心を掴まれて、自分でもビックリするほど落涙。途中で何度か出てくる空想や夢のパートでは、技法、色彩、音がとても豊かで心底驚きました。久々にアニメーション映画を見ることの喜びというか、プリミティブな楽しさを思い出させてくれたようでした。
幼いトットちゃんの自由気ままな振る舞いも大人たちが温かく見守っている様子やトットちゃんと友達の交流にも落涙しました。徐々に戦争の気配がトットちゃんの暮らしに影響してくると、この世界の淀みや歪みにも気づかずにはいられない。トットちゃんの視点から見えるものをしっかり描き出していて、当時の生活様式の緻密な描写なども含めて作り手のこだわりや覚悟を感じる誠実な映画でした。
1位 おーい!どんちゃん 2023年9月2日鑑賞
沖田修一監督・脚本。売れない俳優、道夫(坂口辰平)、郡司(遠藤隆太)、えのけん(大塚ヒロタ)。三人が共同で暮らす一軒家に、ある日、家の前に置いていかれた女の赤ちゃん。彼らは、その子を「どんちゃん」と名付けて、みんなで子育てすることに。
トットちゃんも素晴らしいのですが、こちらの映画の主人公はどんちゃん。このどんちゃんとは、沖田修一監督の実の娘さんで。この映画の成り立ち自体がかなり独特で面白く、詳細な経緯は沖田修一監督が書かれたnoteに記載されています。
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2014年~2017年にハンディカムで撮影されていて、映画完成するまでかなりの年月が経過しているんですよね。2023年現在からみると、「ちょっと昔」の空気感がこの映画に保存されていて、不思議な気持ちになりました。いきなり父親になり、赤ちゃんを育てることになった3人の男たちのドタバタぶりと、すくすく育っていくどんちゃんの愛おしさが尊い。マジで尊い。
育児描写はもちろん、役者を目指している3人のオーディションや稽古の描写など、笑ってしまう場面がたっぷりある一方で、なんてことのない場面が感動的でなぜか涙ぐんでしまう。そんな不思議な温もりを感じる映画でした。特殊な形態の映画なので、2024年以降も上映の機会があるのかどうかは不明ですが、素朴ながらも素敵な映画なので、細々でも見られる機会が続いていけばいいなぁと勝手に思っています。
さいごに
自分が選んだ10本の映画に共通点めいたものを見出すとしたら、なんとなく「親愛」というテーマでくくられるかな、と。親愛や相手を理解することの重要性を描いた作品だったり、親しみを抱いていた…はずなのに関係性がこじられてしまった作品だったり。上記の10作品すべてに当てはまるわけではありませんが、振り返ってみると「親愛」的な要素を感じるものが傾向として多いように思いました。
2023年という年は個人的にもショックな出来事が起こったこともあって、映画の中で描かれた「親愛」にまつわることは個人的にも響きやすかったのだろうな、と自己分析しています。なかなか大変なことが多いですが、それでも映画を見るという行為をこれからもできる限り大切にし続けたいと思っています。
それでは、また来年。
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