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正月とバレンタインの狭間で:ダウ90000『ずっと正月』について

 ここ数ヶ月、ダウ90000にハマっている。ダウ90000とは何か。2020年に旗揚げされた男女8人からなるユニットだ。劇団っちゃ劇団かもしれないが、演劇だけでなくコントや漫才もやる。色々をやる。何といってよいかわからないが、既存の枠組みにとらわれない不思議なグループだ。そのうちのメンバー5名は先日のM-1グランプリ2021に出場し、準々決勝まで進出した。自分がダウ90000を知ったタイミングは、M-1の3回戦での漫才の動画(※現在は配信終了)を見たときで、それがハチャメチャに面白かった。彼らの漫才やコントや芝居は、多人数で展開され、用いられる言葉のセンスが面白く、非常にテンポが速い構成なのが特徴だ。それ以来、YouTubeで配信されている他のネタ動画を見るようになった。

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 そんなダウ90000の第3回本公演『ずっと正月』が先日、新宿シアタートップスにて上演された。全公演終了後、映像配信が始まったので、さっそく視聴した(2022年3月6日まで配信中とのこと)。これも非常に面白かった。

 舞台は、夜のショッピングモールのショーケース。ショーケースにはお正月らしく、門松、鏡餅、コタツ、富士山の日の出のイラストに「SALE」と記されたポスターが並んでいる。正月もとっくに終わり、バレンタイン商戦に向けて、ショーケースの中で正月用からバレンタイン用に装飾を取り替えようとしているショップ店員たち。そして、このショーケースの前で待ち合わせをする若者たち。このショーケースの内と外で、それぞれの人間模様が展開し、意外な事実が判明する。

 まず、ショーケースを舞台に100分の演劇に仕立てたことがすごい。「ケースの中」と「外」で、大きく2つのレイヤーに分かれるのだが、割と早い段階で誰かがショーケースの内外を行き来し始める。いろんな人物が出入りを繰り返しているうちに、開演から約40分以上経つと、冒頭からは想像もつかないビジュアルや話題がショーケースで繰り広げられている。一夜の混乱と多幸感を可視化したような装飾やアイテムの使い方にも笑わせられて、心の底から楽しかった。

 ショーケースは人のイメージを具現化する空間であり、飾り付けをする者のセンスが試される空間でもある。人のセンスが問われる場所で、特に ある登場人物は自分をさらけ出すことになる。何かを言葉にすることの面白さ、言葉にしてしまうことの切なさ、そして(良い意味での)しょうもなさが、重箱に入ったおせち料理くらいにギュウギュウに詰め込まれていた。主宰で演出と脚本を担当し、自身も出演している蓮見翔は人間のツボみたいなものをガッチリ抑えている。抑えすぎていてちょっと怖いくらいだ。

 もうひとつ細かいところでいうと、普段のネタでは、バカっぽい役回りを引き受けている園田祥太が、今回は比較的 常識人の店長を好演していたのが新鮮に感じた。彼が発する「季節って巡るんだぜ?」「当分、四季折々あるよ日本は」という台詞は当たり前のことを言っているだけなのに、とても笑ってしまった。

 日常のふとしたことや感情のかけらのようなものが、独特なフレーズや実在するカルチャーに例えられることで、舞台上に立ち上がってくる。彼らが話している台詞はとても自然体で、不思議と親密なものを感じてしまう。『ずっと正月』に限ったことではないが、ダウ90000の他の作品にも言えることとして、2013年に放送された坂元裕二脚本のドラマ『最高の離婚』を初めて見たときの衝撃に近いような、そんな手触りをずっと感じている。

 自分は関東在住ではないため、遠征して観劇することが今は難しいが、いつかこの人たちのライブを生で見れたらなと思う。