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エンタメの箱に梱包された問い:『ラストマイル』について

 ブラックフライデーの前夜、大手ショッピングサイト「DAIRY FAST」から出荷された配送物が爆発する事件が発生。爆破が相次ぐ中、巨大物流倉庫のセンター長に就いたばかりの舟渡エレナ(満島ひかり)は、チームマネージャーの梨本孔(岡田将生)と事態の対応に追われる。

 テレビドラマ『アンナチュラル』『MIU404』とも世界線を共有しており、両作品のキャラクターが『ラストマイル』にも登場する。『アンナチュラル』『MIU404』の特徴は、事件の謎を追いかけていくと徐々に社会問題が見えてくる構成にある。脚本を手がける野木亜紀子の手腕が光る。同じ座組で作られた『ラストマイル』においても同様の構成がとられている。エンターテイメントという箱の中に社会への問いが梱包されているのだ。


 『ラストマイル』はブラックフライデーで慌ただしい物流の現場を題材にしている。まず、それを2時間の映画にしようという着眼点が面白い。劇中のDAIRY FAST社はどう見てもAmazonをモデルにしている。ただ、ネットショッピングは多くの人が利用する身近なものなのに、その裏側や実態はどうなっているのかはよく知らない。多くの人にとって、自分事として興味を持ちやすい切り口だ


 舞台となる物流センターや配達フローの描写は解像度が高い。大量の荷物がひしめき合うこんな空間に爆発物が紛れていたら…と考えるとゾッとする。ただでさえ忙しいのにどうやって爆発物を探せばいいのよ?という登場人物の気持ちにも、強固な説得力が生じる。一体誰が何のために?爆弾は残り何個ある? 連続爆破を巡るミステリーの展開は非常に面白く、事件の全貌が見えたなと思ったところから、さらにもう一展開あり、飽きさせないつくりになっている

 連続爆破事件の謎を探るうちに、物語は「物流」のシステムだけでなく「労働」や「格差」を巡る話にも接近していく。例えば、正社員のオフィスはゆったりしているが、その他大勢の派遣労働者やカスタマーセンターは狭い空間で働いている。そんな密度の対比が繰り返し出てくる。ネットショッピングが盛況になればなるほど、運ぶべき荷物や仕事量は増えて、稼働し続ける現場は疲弊していく。

 物流システムにおける「発注元」と「下請け」という関係性。「本社」と「支店」という関係性。そして「販売者」と「お客様」という関係性。それぞれの関係性が入り組んだ状況で、余裕がないままだと、どこかで板挟みになって苦しむ人が当然出てくる。稼働を止められない社会のシステムにどう抗うか、何か変えられる余地はないのかというレベルの話もしている。労働力としては目減りしていく一方なのに、運ぶべき荷物や仕事量はめちゃくちゃ多い…という、衰退していく日本社会への問題提起にもなっている。

 『ラストマイル』では「線」が象徴的に撮られている。物が運ばれるベルトコンベアの動線、道路、モノレールの線路、商品の在庫の棚の区画、箱に貼られた養生テープ、そして、柵。一線を越えてしまった人。それでも踏みとどまっている人。線に沿って仕事をしている人。その線の先で生活している人。様々な人物が『ラストマイル』には出てくるが、その個々人の思いや姿勢を自分と照らし合わせて見ることができる余地がこの作品にはあった。